放射線の話題紹介

放射線を遮蔽する“タングステン機能紙”

凸版印刷(本社、東京都千代田区)が、京都大学大学院の平岡眞寛教授らの協力を得て開発した、放射線を遮断するタングステン機能紙を今月中旬から市場にサンプルを出荷したそうです。タングステンは、X線やγ線などの放射線を遮蔽する機能を持つことが一般的に知られていますが、本製品はタングステンを高密度に充填したことにより、タングステン自体の特長を維持したまま加工性の向上を実現しました

タングステンとは、X線遮蔽用の金属、元素記号W、金属のうちで最も融点が高い材料です。古くは電球のフィラメントとして利用されており、最近では放射線遮蔽用途をはじめ、真空蒸着用の加熱素材やドリルなど、幅広い用途で利用されている材料です。

開発の背景は 現在、医療分野では放射線が広く活用されていますが、その放射線に対する遮蔽は、鉛板の使用が中心でした。鉛板は加工が困難なことや、その鉛廃棄物は環境への影響が懸念されることから、より環境にやさしい代替の製品が求められていました。一方、医療分野以外では、東日本大震災の復興作業で、現場の作業員が防塵服を着用していますが、現在の防塵服単体では、通常は放射線遮蔽機能がありません。そのため、作業時間が短く、作業効率が低下するという課題がありました。

タングステン粉末と樹脂を混練して作られた放射線遮蔽シートは、すでに他のメーカーによって商品化されていますが、凸版印刷は紙の製造工程で、タングステンの混入比率を紙の全重量の8割にまで高める技術を開発したそうです。紙の標準仕様は厚さ約0.3ミリ、幅約50センチのロール形状。価格は50センチ四方で7,000-8,000円程度になるそうです。

この製品は、X線やガンマ線などの放射線に対して、鉛と同等以上の俗(しゃへい)能力をもつ金属タングステンを混ぜ込んだ紙のようです。鉛のように環境への悪影響がなく、加工もしやすいため、放射線に汚染された廃棄物の遮蔽や除染作業での防護服、放射線検査室の内装材などへの利用を見込んでいるそうです。

その機能性は、凸版印刷が9月7日に発表したところによると「タングステンはX線やγ線などの放射線を遮蔽する機能を持つことが一般的に知られているが、タングステン機能紙はタングステンを高密度に充填することにより、タングステン自体の特長を維持したまま加工性の向上を実現できたとしています。

この製品を生かすため、同社では「医療や被災地を中心とした建築物などさまざまな用途向けにサンプル出荷を行う」としており、「トッパングループが持つ建装材、産業資材関連技術とのシナジーによる新たな用途や使用方法などの検討も進める」考えているようです。シナジ−とは、企業における各事業の関係や企業統合の効果を表します。

特長と用途は 本機能紙は、断裁や折りたたみ、フィルムをはじめ他材料への貼り合わせなど加工が容易という特長があります。また、鉛フリーであることから、屋内・屋外問わず、人が触れるような用途でも活用できます。これらの特長を活かして、以下のような応用が可能です。

今回の製品は「放射線検査室、放射線治療室の壁や扉、カーテンなどをはじめ、放射線の遮蔽が困難な手術室、病室での簡易遮蔽材、核医学検査室での汚染された床の遮蔽材、医薬品輸送箱などへの応用被災地・復興作業」など幅広い医療分野での利用が見込まれる。

医療分野では、@放射線検査室および放射線治療室の壁、扉、カーテンなど、A放射線の遮蔽が困難な手術室、病室での簡易遮蔽材、B核医学検査室での汚染された床の遮蔽材、医薬品輸送箱などへの応用被災地・復興

作業分野では、@放射線環境下での作業員保護や汚染された物質、廃棄物の簡易遮蔽A被災地の体育館など、広域避難場所を新築する際の建装材B既築建造物の壁や扉、天井への貼り合わせ

肝心の放射線の遮蔽性能については、京都大学大学院の平岡眞寛教授と門前一・准教授の協力を得て性能評価を確認したそうです。このタングステン紙を3枚重ねると、医療分野で一般的に使われる0.25ミリ鉛板と比較して、同等の放射線遮蔽効果を有することが確認されたそうです。
なお、平岡教授らは、2012年9月2-7日、奈良市で開かれた第12回放射線遮蔽国際会議で、今回のタングステン紙に関連した発表を行ったそうです。(TN)
(出典:日経プレスリリ−ス-WindowsIE)


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